一軒の農家の誕生
2017-04-12 配信
「一軒の農家の誕生」
伊賀での就農を目指している愛農高校の卒業生が里の市にきて、空き家を探しているけど情報はありませんかというので、JAの空き家バンク担当の方を訪ねて聞いてみました。すると空き家になった農家があるというので、一緒に見に行きましたが、なかなかのお家で、何よりも立派な倉庫があったのが魅力的でした。田んぼは50アールほどあるが畑が少ないというので別の方に畑を貸していただけないか聞いていただくと、空いてる土地があるから使っていいというお返事がありました。彼らがこのお家をお借りするかはこれからの話になりますが、熱心に農業をされていた家主さんの、農業を志す人に使ってほしいとしいという思いに応えて、この家がまた農家として生き返るなら本当に嬉しいことです。
私は生まれた時から農業が好きでたまらない両親のもとで育ちました。阿蘇山のすそ野の村里で嬉々として働く親の姿に、自分も大きくなったら農業をしようと決めていました。幼いころから農作業を手伝い、実際に結婚して実家を離れるまでずっと田畑と養鶏という農業に勤しんでいました。神奈川に住んでいた6年間は、消費者として東京愛農流通センターのお野菜の仕分けのポストになって、3人から始まって、最後は70人の方々と愛農のお野菜をわけあいました。その後主人の母校愛農高校に帰って、主人は有機農業の担当になりましたので、私はずっとその手伝いをさせていただきました。愛農高校のお野菜たちを地域の方々にも食べていただく、販売担当者として心を砕いていたことから、ハラペコあおむしを皆さんと一緒に立ち上げて、それから10年間毎日愛農高校のお野菜を運んでハラペコで販売し続けたわけです。わずかな量でしかありませんでしたが、農業を応援したい、農家を応援したいという一念でハラペコの運営を続けさせていただいたおかげで、後継者が与えられ、たくさんのすてきな店員さんたちとご縁ができ、素晴らしいお客さんたち、みなさんに助けられてきました。本当に感謝です。
多くの人が農業の問題は自分たちには直接関係ないと考えておられると思います。農業が自分たちの命に直結していること、誰が真剣に考えなければいけないかというと、実は消費者であると私は考えています。近い将来農家が3分のⅠに減るというこの重大な問題について、ほとんどの人が危機意識を持っていません。マスコミもそういうことに関心がないからです。でも幼い時から農業とかかわり続けてきた私は、直観として大きな危機感を持っています。私の住んでいる集落80戸で専業農家は1昨年就農してくれた小山さんだけです。でも今は周辺の田畑は70~80歳のお年寄りによって守られています。この方たちが1人減り2人減りしていますが、あるところで急激に減ることは目に見えています。もう作れないというので立派な田んぼにソーラーが建てられ、
耕作放棄地になっていきます。それが日本中で起こっているのです。スーパーに行けばたくさんの野菜が並び、食糧が足りなくなるという想像はできないかもしれません。
でもそうなったときに考え始めても遅いのです。自分たちの命の糧を生産する現場の状況を知り、関心をもって、1軒の農家の誕生がどれほど自分たちに直結した大切なことかということに、心をとめていただければと願っています。近くに空き家や耕作できない農地があればどうぞ教えてください。「里の市」でもそういう情報を集めて、ささやかでも農業を目指す人たちに橋渡しをしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
代表 奥田美和子
ハラペコ通信2017年3月号より